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アーティストに必要な契約知識

筆者が2011年4月に「feel at home Music」を立ち上げた理由の一つに、2000年頃からの約10年間、メジャーデビューを目指すアーティストが契約や法律の知識がないままインディーズレーベルやプロダクションと安易に契約を結んでしまい、そのトラブル相談を多く受けたことがあげられます。

もちろん、契約内容や詳細な説明を丁寧にされているレーベルやプロダクションも存在していましたが、一方では制作費に見合わない音源が制作されていたり、名前だけで実態のないプロダクションも存在していました。

本記事ではアーティストが結ぶ「マネジメント契約」「専属実演家契約」「著作権契約」を中心に、付随する「アーティスト印税(歌唱印税)」「作家印税」などについて一般的な解釈をご紹介していきたいと思います。

1.マネジメント契約について

マネジメント契約はアーティストとプロダクション(=事務所)との間で結ぶ契約です。

プロダクションはアーティスト(タレント)の行うライブやレコーディング、メディア出演や雑誌取材など様々な仕事の営業やサポートを行い、その報酬として出演料などを受け取ります。受け取った出演料などは「マネジメント契約」に基づきアーティストへ支給することになります。

支給方法は大きく二つに分かれ、一つは固定給、もう一つは歩合制です。前者はサラリーマンと同じように毎月決まった金額を支給する方法。後者はアーティストと事務所で割合(例えば5対5など)を決めて支給する方法。この割合に決まった数字はなく、『プロダクションの方針』『アーティストの芸歴』『事務所への貢献度』などによって変わります。

一般的にはプロダクションとマネジメント契約を結ぶと、マネージャーがついて、あれこれお世話をしてくれて…というイメージがあると思いますが、マネージャーも専属の場合と兼任の場合があるので、どんなプロダクションと契約したとしても、まずはアーティスト自身に『自分で考えて行動できる素養』が求められてきます。

2.専属実演家契約について

専属実演家契約はアーティストとレコード会社との間で結ぶ契約です。

アーティストは著作権法上「実演家」と呼ばれ、自身の歌や演奏を録音物に固定できる「録音権」や映像を録画媒体に固定できる「録画権」という権利を有しています。レコード会社はCDや音源、DVDやBlu-rayを出すためにこれらの権利を譲り受け、その報酬として『アーティスト印税(歌唱印税)』を支払う約束をします。そして、これらの取り決めを行ったものが「専属実演家契約」です。

実演家契約は大きく二つに分かれ、一つは包括契約、もう一つは単発契約です。前者はレコード会社と年単位の契約を結び、期間内に作品を出し続けるという契約。契約期間内は他のレコード会社から作品をリリースすることはできません。後者は楽曲単位や作品単位で契約を結び、制作の都度リリースするレコード会社を変えられる契約。ちなみに当スタジオで流通/配信タイトルをリリースする場合、後者の単発契約を交わしております。

また、実演家は著作隣接権(放送権、送信可能化権、譲渡権、貸与権、など)や二次使用料請求権、貸与報酬請求権なども有しています。

レコード会社が有する権利

レコード会社はミュージシャンやエンジニアに演奏やレコーディングなどの仕事を依頼して「原盤」と呼ばれるマスターテープを制作することが出来ます。この時、原盤を作った会社(もしくは個人)のことを「原盤制作者」と呼び、原盤制作者は「原盤権」を有することになります。

原盤権は著作権法上「レコード製作者の権利」に分類され、「貸与権」や「複製権」などが含まれます。CD等のパッケージに記載されている「権利者の許諾なく○○することは著作権法上で禁じられています」という文言は、これらの権利に基づいて記載しています。

アーティスト印税(歌唱印税)について

アーティスト印税(歌唱印税)は新人アーティストの場合1%、大物歌手になっても3%~5%といった数値が目安となります(全ての契約がこの限りではありません)。例えば1枚1,000円のCDが売れたら、新人アーティストにはその1%の10円が印税として支払われます。

3.著作権契約について

著作権契約はアーティストと音楽出版社との間で結ぶ契約です。

ここではアーティスト自身が作詞や作曲を行った「著作者」であるとして話を進めていきますが、音楽出版社は著作者から著作権を譲り受け、著作権法上「著作権者」となり、楽曲を使ってもらえるように様々な媒体へプロモーションを行っていきます。その上で楽曲の使用者から著作権使用料を受け取り、契約に基づいた配分で著作権印税をアーティストへ支払います。このような取り決めを行ったものが「著作権契約」です。その中でも以前、筆者が契約したのは「著作権譲渡契約」でした。

この時、楽曲の使用者から著作権使用料を徴収してくれるのがJASRACやNexToneなどの著作権管理事業者です。著作権管理事業者には「音楽著作物の使用者に使用許諾を与え、その使用者から著作権使用料を徴収し著作権者へ分配する」という役割があります。そのため、音楽出版社と著作権管理事業者との間にも契約(著作権信託契約)が存在します。

その他、著作権に含まれる権利として、複製権、演奏権、譲渡権、貸与権、頒布権、上演権、上映権、公衆送信権…など様々なものがあります。自身の楽曲や好きなアーティストの楽曲がどのように管理されているかは、各著作権管理事業者の作品データベースにて詳細を確認することが出来ます。

音楽出版社の役目

音楽出版社は楽曲の管理やタイアップ取得などを含めたプロモーションを行う会社です。

具体的には楽曲の音源化や配信するためのプロモーション、カラオケや雑誌、メディアへのセールスプロモーション(楽曲を使用してもらうための売り込み)を行います。使用例を挙げると、Aテレビ局が設立しているB音楽出版社がある場合、Aテレビ局のドラマで使う曲をB音楽出版社が権利を持つ楽曲から選ぶことがあります。

作品データベースでドラマの主題歌を検索すると、放送局と同系列の音楽出版社が楽曲を管理していることが多いです。逆を言えばB音楽出版社と著作権譲渡契約を結ぶことが出来れば、Aテレビ局のドラマで自分の楽曲を使ってもらえるかもしれないことになります。

しかしながら、実際には業界内のオーディション等を勝ち抜いたアーティストや、プロモーションの中で抜擢されたアーティストだけがその座を手にすることが出来るので、とても狭き門になります。

作家印税について

作家印税は作詞でも作曲でも各々2%が目安となります(全ての契約がこの限りではありません)。例えば1枚1,000円のCDが売れたら、作詞家や作曲家にはそれぞれ20円の印税が支払われます。

ここでよく聞かれるのが「編曲家(アレンジャー)には印税が入るの?」という質問ですが、編曲家は法律上著作権に分類される権利を有しています。しかしながら著作権印税として分配されている編曲印税は僅かで、現実的には『プロデュース印税』などの名目で原盤権者から印税を支払っているケースや制作料(アレンジ料)をお支払いしているケースがあります。

著作者と著作権者

著作者は著作権の中でも譲渡できる「財産権」と譲渡できない「人格権」を有しています。

アーティストが楽曲を作った時、自身は楽曲の著作者であるとともに著作権者(権利を有している者)でもあります。その後、音楽出版社に権利を譲った場合、著作者はアーティストになりますが著作権者は音楽出版社になります。この時、財産権は譲ることはできますが人格権は譲ることが出来ないため自身に専属し続けます。

4.自分で作った曲なのに使用料を払わないといけないの?

よく「自分で作った曲なのに使用料を払うなんておかしい!」という言葉を目の当たりにすることがありますが、ここまで読み進めてくださった方はどのように考えますか?

通常、自身で作詞作曲した楽曲は音楽出版社へ著作権譲渡契約に基づき譲渡されます。そのため、その楽曲をレコーディングして原盤を作るレコード会社は楽曲の著作権使用料を納める必要があります。

前述の通り、著作者はアーティスト自身であっても著作権者は音楽出版社になるため、自身で使用する場合でも権利を有しているものに対して著作権使用料を納める必要があり、納めた使用料は著作権印税として契約書に基づいた配分でアーティスト自身へ戻ってくる仕組みになっています。

もし、自分で作った曲に対して使用料を払いたくない場合はJASRACやNexToneなどの著作権管理事業者と契約する際、『全てを委託する』『一部だけ委託する』など管理の委託範囲を決めることが出来ます。委託範囲については個人の場合は自身で決定できますが、音楽出版社を経由する場合は出版社ごと(事業部ごと)に委託範囲が異なる場合があります。契約の際はよく確認するようにしましょう。

その他にも音楽出版社や著作権管理事業者とは契約を結ばず、自己管理する方法があります。しかしこの場合、自分の曲がTVやラジオ、その他様々な場所で使用された場合、その使用者に対して自身が著作権使用料を徴収することになり、現実的に個人が使用者に対して徴収していくことは非常に困難だと感じます。

5.まとめ

●アーティストはプロダクション(=事務所)と「マネジメント契約」を締結
⇒『固定給』もしくは『歩合制』で契約を結び、歩合制の割合に決まりはない

●アーティストはレコード会社と「専属実演家契約」を締結
⇒『アーティスト印税(歌唱印税)』は新人の場合1%が目安

●アーティストは音楽出版社と「著作権契約」を締結
⇒作詞や作曲した際の『作家印税』は各々2%が目安

ちなみにメジャーのレコード会社は原則個人とは契約をせず、プロダクションと契約をします。例えば「Aレコード会社とBプロダクションは、Bプロダクション所属のアーティストCに関して、次の通り専属実演家契約を締結します」みたいな感じです。

昨今はデジタル化が進み、個人で音楽を配信し動画も制作できる時代になりました。音楽業界も日々変化を求められるため、契約内容も多様化しています。ここで紹介した内容はあくまで一般的な解釈になるので、各々のケースについてはしっかりと契約内容を確認の上、締結するようにしましょう。

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(文/村瀬 宏志)

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